菅野文さん×松崎史也さん 対談 【後編】

漫画「薔薇王の葬列」の作者・菅野文先生と舞台「薔薇王の葬列」演出の松崎史也さんの初対談、さらに演劇愛にあふれた後編をお届けします。

脚本を読んだときにすごく嬉しくなった

――菅野先生は、舞台「薔薇王の葬列」にどんな期待をされていますか?

菅野 脚本を読んだとき、納得のいくものに仕上がっていたので、すごく嬉しくなりました。私は面白いなら作品が改変されることはあまり気にしないタイプですけど、台詞の言い回しとか、自分がカッコいいと思うところが松崎さんと共通しているなと思いました。

松崎 いや、すごく嬉しいです。でも何を大事に描かれているかは、わかっていることでもあって。だから最初から漫画が好きだったわけで。そこを演劇でもう一度表現するならば、どこを舞台「薔薇王の葬列」としてお見せするか。まずは先生に喜んでいただく必要があるというか。元々演劇だったものをご自分で分解して再構築されて、それがアニメになって。もう一回分解して演劇にする以上「ここですよね、先生!」って、やっぱりすることが、この作品を好きなお客様にも届けることだと思うので。

菅野 今日、稽古を拝見していて、舞台上に作り出される「絵」がすごくカッコいいと思ったのですが、絵づらみたいなものって、脚本を書いている段階で決められているんですか?

松崎 脚本を書いているときは、全く決めていなくて。稽古に入る前には、ある程度ここがこうなってくらい考えていて。ただ無意識レベルで何割かは書きながらもここはこうなるだろうなくらいはあるし、まあ緩急の意味では「こういうシーンの後にはこういうシーンで」、「次はこういうけれんみの強いシーンで。」みたいなことの強度はある程度決まっているので、その強度に合わせて絵を作っているという感じです。

菅野 そうなんですね。すごく細かく立ち位置とかも指示されていて、脳内に完璧にできあがっているのかなと思ったので。

松崎 そうじゃないです(笑)。

菅野 すごい! でもそれは、やはり空間に慣れているから?

松崎 そうですね。長く続けていると演出の手数、引き出しが増えていくので、その動きが無理だったら、じゃあこっちっていうことに、なっているんだと思います。先生は、どういう画面でその台詞を言っているか、絵の重要性を誰よりも知っていらっしゃるから、気にされますよね。

菅野 舞台を観て、やっぱりうっとりしたいじゃないですか。“うわ~カッコいい”みたいなそういう気持ちを味わいに行ってる部分もあるから。あの“うわ~カッコいい”は劇場で観る演劇特有のものがある感じがするんですよね。なんだろう…波動っていうか(笑)。

松崎 フフフ。生見せの取返しのつかなさみたいなものが、演劇の最大の強みではあるので。

菅野 一公演で何回か観ていると、あの日が一番良かったというのもありますよね。

松崎 そういうお客様がいらっしゃるから、手も気も抜けない(笑)。

何も知らない人にこそ観てほしい

――松崎さんから、改めて演出家としての意気込みをお願いします。

松崎 とにかく先生に見ていただきたくて。それは先生の作品を好きな人に見ていただきたいってことでもあります。役者たちもこの作品をすごく好きで。

菅野 それは嬉しいです。

松崎 やっぱりわかる部分でも、わからない部分でも、この作品に演劇のDNAを感じるんだと思うんです。

菅野 ありがとうございます。

松崎 しかも、今回の役者たちは、僕から見てもすごく頼もしい、技術と矜持のある俳優たちなので、『薔薇王の葬列』という作品を愛している皆さんに、失礼のない、胸を張ってお届けできる作品に必ずなると思います。ぜひご覧いただきたいと心から思っております。

――菅野先生は、主人公のリチャード役を女性と男性の俳優がWキャストで演じることについては、どう思われますか?

菅野 すごく面白いと思って。これこそまさに、演劇でしかできないことなので、ぜひ2パターンを観たいですし、皆さんにも観ていただきたいと思います。その試み自体がすごく面白いから、何も知らない人にこそ観に来てほしい。演劇も『薔薇王』も知らない人に、男女のWキャストって珍しいって思って、それをきっかけに観てもらえたらいいですね。

松崎 そうですね。演劇はそのぐらいの気楽な娯楽になるといいんですけどね。

――演劇は、まだ敷居が高いところがあるのでしょうか?

松崎 高いと思いますね。

菅野 でも、ある意味2.5次元はそのハードルを下げている貢献度はありますよね。それでいて、クオリティは下がっていないので、一番入りやすい入口だと思う。

松崎 そうですね。

――最後に初対談の感想とお互いの印象を教えてください。

菅野 初対面ですが、すごいお話ししやすかったです。

松崎 いや、よかったです(笑)。

――この作品に関しては、とても意気投合されていると感じました。

松崎 そこは、こちらはお会いする前から、言葉は荒いですがわかっていました(笑)。

菅野 ハハハハ。作品を読んでいただけたら確かに。漫画家は作品に全部入っていると思うので。

松崎 なのでお会いしての印象というか、「会って話すことがようやくできて、本当に嬉しいです」という気持ちです。

菅野 インタビューでお会いする方で、シェイクスピアに詳しい方がぜんぜんいないので、なかなか掘った話ができないから、たくさんお話できて今日はすごく楽しかったです(笑)。

松崎 ハハハハ。

菅野 余談ですけど、絶対にシェイクスピアにはヒップホップが合うと思っていて。

松崎 いや、合う。僕もそれずっとやりたいと思っているんですよ。

菅野 やってください、ほんとに。だって、そもそも節のある台詞じゃないですか。『ヘンリー六世』の喧嘩のシーンなんて、まさにラップバトルなんですよ。

松崎 そう、ハマるんですよね。ラップバトルとか。

菅野 シェイクスピアを観ていたら、絶対に思うと思うんです。たまにラップになっていますもん。

松崎 自然にね?

菅野 自然に(笑)。

――最後はまたシェイクスピアの話になりましたが(笑)。お2人のお話を伺って、舞台「薔薇王の葬列」への期待感がより高まりました。

松崎 本当にいい演劇になると思っていますので、たくさんの方に観ていただきたいです。

菅野 ぜひ生で観て欲しいです。やっぱりライブって迫ってくるものが、ぜんぜん違いますから!

松崎 その通りです!