午後六時、私の部屋のインターフォンが鳴った。恋人のアキラ君が予定より早く来たのだろうか? モニターを見ると、見覚えがあるような、ないような男が立っている。
「突然すみません。蘇我慶太です。僕のこと、覚えていますか?」
中学時代の同級生で、サッカー部のキャプテンで、生徒会長を務め、定期テストはいつも満点、県内で最も偏差値の高い高校に進学した蘇我君。
現役で東大に進学して、在学中に司法試験と医師国家試験に合格して、論文で何かの賞を受賞して、当時は天才としてテレビなんかにもよく出ていた。卒業後はしばらく研究者をしていたようだったけれど、三年前に投資会社を設立して、そこでも成功して上場したらしい。
でも、彼とは十三年間一度も会っていない。なぜいきなりうちに?
「僕は、あなたを救いに来た」驚く私に蘇我君は、「僕は二〇二二年の四月十一日を約千二百回繰り返しています」と告げた―。
半信半疑の私をよそに、蘇我君は誰も知らないはずの私の秘密を次々と言い当てていく。何度も私を助けようとして、その度に私は死んでしまったという。この男を信じていいのだろうか、そして私は死んでしまうのか? 不思議な、けれど途方もなく長い夜が始まった。